大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和63年(ワ)18472号 判決

原告

住 利 町 会

右代表者会長

富 澤 正 雄

右訴訟代理人弁護士

伊 藤 伴 子

被告

東   京   都

右代表者知事

鈴 木 俊 一

右指定代理人

和久井 孝太郎

民 部 俊 治

主文

一  原告が別紙物件目録記載の土地につき所有権を有することを確認する。

二  被告は、原告に対し、別紙物件目録記載の土地につき、昭和三四年三月二0日売買を原因として富澤正雄(東京都江東区住吉一丁目一九番五―二0一号)に対する所有権移転登記手続をせよ。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一  当事者の主張

一  請求の趣旨

[主位的請求]

主文同旨

[予備的請求]

1 主文第一項同旨

2 被告は、原告に対し、別紙物件目録記載の土地につき、昭和三四年三月二0日取得時効を原因として富澤正雄に対する所有権移転登記手続をせよ。

3 主文第三項同旨

二  本案前の答弁

1  本件訴えを却下する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

三  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の主位的請求及び予備的請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1(一)  別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)は元被告の所有するものであり、現在も登記簿上の所有者は被告となっている。

(二)  昭和二八年四月一日、住吉アパート親和会(代表者富澤正雄以下三0二名)は、被告との間で、本件土地上の建物(未登記)及び本件土地を町会事務所及びその敷地として、次の約定による分譲契約を締結した。

(1) 分譲代金は、三万三四二四円とする。

(2) 買主は、売主に対し、右分譲代金を、昭和二八年四月から昭和三四年三月に至るまで、毎月四六四円(ただし、第一回は四八0円)宛支払う。

(3) 前項の月賦金は毎月二0日迄に支払わなければならない。

(4) 買主が分譲代金を完納したときは、被告は、分譲物件の所有権移転登記手続をしなければならない。

2  住吉アパート親和会は、昭和三二年頃、住利町会と名称を変更し、江東区役所にも団体登録をしている法人格なき社団となった。

原告は、本件土地上の建物を町会事務所としてその後も使用を続け、前項(一)(2)の分譲代金及び本件土地の固定資産税を町会費の中から支払っており、昭和三四年三月二0日右分譲代金の支払を完済した。

3  住吉町会は、住吉・毛利町に所在する同潤会アパート一八棟三一五戸の居住者により結成された町会である。

4  右同潤会アパートは昭和初期に財団法人同潤会により建設されていたところ、その敷地を含め昭和二五年一0月三一日被告に買収され、その後昭和二六年以降居住者に分譲された。

5  よって、原告は、被告に対し、

主位的には、昭和三四年三月二0日代金完済の日をもって売買を原因とする所有権移転登記手続を、

予備的には、原告が昭和三四年三月二0日以降自己のために所有する意思をもって善意無過失に本件土地の占有を続け、昭和四四年三月二0日の経過をもって所有権を時効取得したと認められるので、昭和三四年三月二0日時効取得を原因とする所有権移転登記手続を求める。

なお、原告は法人格なき社団であるため、代表者である富澤正雄名義に所有権移転登記手続をすべきことを求める。

二  本案前の抗弁

原告は、法人格なき社団として本訴を提起しているが、原告は社団としての要件を充足しているとはいえず、したがって、当事者能力を有しないから、本件訴えは却下されるべきである。

三  請求原因に対する認否

1(一)  請求原因1(一)の事実は認める。

(二)  同(二)の事実のうち、被告が原告主張の日に主張内容の契約を締結したことは認めるが、本件土地上の建物及び本件土地を町会事務所及びその敷地としたことは知らない、その余の事実は否認する。被告が分譲した相手方は、住吉アパート親和会ではなく、当時の住吉・毛利町の同潤会アパートの居住者全員である。

2  同2の事実のうち、本件土地の分譲代金が昭和三四年三月頃完済されたことは認めるが、その余の事実は知らない。支払をしたのは同潤会アパートの居住者である。

3  同3の事実は知らない。

4  同4の事実は認める。

5  同5の事実のうち、原告が昭和三四年三月二0日以降所有の意思をもって善意無過失に本件土地の占有を継続したことは知らない。

第三  証拠関係〈省略〉

理由

一当事者能力について

1  〈証拠〉によれば、

(一) 原告は、会員相互の親睦と団体生活の規律を図り適正なる町の発展と民主文化の達成を期することをもって目的として設立された団体であること、

そして、原告は、その目的達成のため、規約(住利町会会則)に基づき、会員相互の福利厚生の増進に関すること、保険・衛生・防犯・防火及び防水に関すること、祭典及び慶弔慰に関すること等の事業を行っていること、

(二) 原告は江東区住吉一丁目の一八の一号から一九の九号まで及び毛利一丁目の八の一号から九号までに居住する世帯主をもって組織される団体であり、会員であったものも対象地域の住民でなくなると当然に会員でなくなり、新たにその住民となると自動的に会員となること、

そして、現在の会員数は、三一五戸の居住者から成っていること、

(三) 原告には役員として、会員中より総会において選出される会長・二名の副会長及び若干名の常務理事のほか、各館から一名ないし二名宛選出される理事、会長及び理事会の承認を得て委嘱される二名の会計・二名の会計監査役・若干名の顧問及び若干名の相談役があること、

このうち、会長は、原告を代表し、会務を統理し、総会及び役員会の議長となり、副会長は、会長を補佐し、会長事故あるときは会長を代理するものとされていること、

(四) 原告には、決議機関として、毎年定期的に開催される総会及び随時必要に応じ開催される臨時総会のほか、会長・副会長及び理事から成る理事会があり、会務の重要事項の決定は、理事会ないし総会で行われること、

(五) 原告は、会員各自から納入される月額二00円ないし四00円の会費と事務所使用料等により会務の費用を賄っていること、

(六) 原告は、現在、江東区役所にも団体登録をしていること

が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

2 以上認定の事実によれば、原告は、対象地域の住民あるいは所有者各人とは別組織体として意思決定がされ、その決定に基づいて活動していることが認められるから、原告は民事訴訟法四六条に定める「社団」としての要件を具備しているものというべきであり、したがって、原告には当事者能力が肯定されるので、原告の本件訴えは適法である。

よって、原告には社団としての実態がなく、原告に当事者能力がないとして本件訴えを不適法却下すべきとする被告の主張は理由がない。

二主位的請求について

1  次の事実は当事者間に争いがない。

(一)  本件土地が元被告所有の土地であり、現在も登記簿上の所有者が被告となっている。

(二)  被告が昭和二八年四月一日、本件土地及びその地上建物を請求原因1(二)(1)ないし(4)の条件での分譲契約を締結し、その約定による分譲代金は昭和三四年三月頃完済された(ただし、分譲の相手方及び弁済者が原告であることは争いがある。)。

(三)  本件土地に隣接する同潤会アパートが昭和初期に財団法人同潤会により建築されていたところ、その敷地を含め昭和二五年一0月三一日被告に買収され、その後昭和二六年以降居住者に分譲された。

2  〈証拠〉によれば、

(一)  本件同潤会アパートについては、戦後、占領軍により居住者への払い下げを指示され、売買代金を納入するまでの間、一時的に被告名義としたこと、

この居住者への売却は、昭和二八年四月頃から同三四年四月にかけて割賦弁済の方法により行われ、代金を完納した同三四年四月一四日の売買を原因として、昭和四五年三月頃居住者名義への所有権移転登記(建物について)及び持分移転登記(その建物の敷地について)が行われたこと、

(二)  本件土地は、住吉公園に隣接する土地で、本件同潤会アパート各戸のための水道ポンプ小屋が建っていたが、戦災で焼失していたものを住民側で修理し、使用できるようにしたこと、

本件土地についても、被告名義となって二年後に住民側で購入することとなったこと、

右売買契約書上、譲受人側は「住吉アパートポンプ小屋親和会代表者富澤正雄外三0二名」あるいは「住吉アパート親和会代表者富澤正雄外三0二名」と表示され、本件アパート居住者会員の署名・捺印がされている名簿が契約書に添付されていること、

しかし、この買受けに当たり、住吉アパート代表者として契約を締結することを購入者側で希望し、被告の方でもこれを了承して、住吉アパート親和会代表者名義で契約を締結したこと、

(三)  本件土地の分譲代金は、住吉アパート親和会の会員から徴収した会費の中から支出し、代金完済前であったが、昭和三一年からは被告の要望により、本件土地についての固定資産税を同じく会費から支出するに至り、この状態は現在まで継続している(本件土地の固定資産税額は原告の予算・決算書に計上されている)こと、

分譲代金完納後、原告の代表者三名の連名の登記をすることで被告も了承したが、居住者の中に被告名義のままの方が安心であるとの意見があり、登記名義の変更はしないまま推移したこと、

(四)  本件土地上の水道ポンプ小屋は、水道の普及により必要性がなくなったことと、前の町会事務所が火災により焼失したので、昭和四二年頃町会事務所に改造し、以後同事務所として利用されていること、

(五)  住吉アパート親和会は、従前の町内会と同じ機能を果たしていたものの、占領軍により町内会の名称を使用することが禁じられたため、従前の借家人組合を解散し、昭和二二年頃設立したものであったが、昭和三二年頃に名称を現在の原告の名称である住利町会に変更したこと、

これは、本件同潤会アパートが住吉町と毛利町にまたがって所在していたため、同アパートの住民から成る町会であることを明かとするため、両町名の一字ずつを結び付けた名称としたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

3  以上の争いのない事実及び右認定事実によれば、本件土地の購入者は、居住者の団体である原告であるものと認められるところ、原告のような法人格なき社団名義の不動産所有権名義の登記方法がないので、代表者個人名義による所有権移転登記手続を求める原告の請求は理由がある。

三結論

よって、原告の主位的請求は理由があるのでこれを認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官田中康久)

別紙<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例